パニック速報

The next stage is paradise…

Aさんという、地元の先輩がいる。
僕が所属する大学のサークルは月曜日と金曜日が活動日だったが、Aさんは活動日には必ずやってくる、いわゆる厄介なおじさんだった。
50代で、非正規雇用。元生活保護不正受給
ボロボロのドカジャンに、薄くなった頭をいつもなにがしかで隠していた。

Aさんは説教魔で、虚言癖で、腕っぷしが強く、そして話がとても長かった。
活動日にやってきては、「おつかれェい~」と、ドカッと部室のソファに腰かける。
ダニだらけの、ボロボロのソファに腰かけ、ヨレヨレになった箱から取り出したcapriをふかしながら、必ずこういうのだ。
「最近の現役はなにもやらんけぇの」
「レベルひっくいわ、みててこらだめだなって感じ」

ヤニで黄ばみ、また不摂生な生活で溶け落ちたのだろう前歯を露わにしながら、大きな声でまくしたてる。
口を開けば自慢話と昔話、うんざりするほどの相槌と称賛を要求したかと思うと、今度は否定と攻撃。
サークルの活動時間は17:00~24:00だったが、Aさんがしゃべり足りないとあれば、ファミレスに移動し、夜が明けるまで相槌を打つ作業に専念することも少なくはなかった。
Aさんがやってくると、僕たち学生は、Aさんの話に対して「そうなんですねぇ」「すごいですね!」「尊敬します!」と、機械的に反応するだけの舞台装置に徹していた。
僕はずっとAさんを疎ましく思っていた。

最近、ふと思うことがある

Aさんは、孤独に耐えられなかったのだろうと

Aさんは、独身である
Aさんは、さまざまなコミュニティで出禁になっている
Aさんは、自殺未遂をしたことがある

Aさんに、古くから続く友達はいない
自身を肯定しない世の中に対峙するために、過剰な暴力性やマッチョイズムに身をゆだねた、ただの孤独な男だったのだろうと

だとすれば、ぼくたちとAさんがどうしてそんなに違うと言えるだろうか
ただ、ゆだねるものが、「悪いこと」から、ステータスに変わっただけではないか
学歴、職歴、収入、モテる・モテない、賢さ、家柄、陰キャ陽キャ
世の中に対峙する武器が、より社会性を向いた方向になっただけで、本質は変わらないのではないか
本質が変わらないのであれば、今歩んでいる道が違うのは、ただのほんの少し、おかれた環境に違いがあっただけなのではないか

ずっとAさんのことが嫌いだった
できるだけ苦しんで死ねばいいとずっと思っていた

でも、なぜか最近はそうは思えなくなってきた